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人生を全て捨て効果発動☆
19話あげました。これで次回からようやくこいし戦です。
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フランドール・スカーレットVS古明地こいし 21 妖怪コイシ②
妖怪コイシ②


 ふらふらとこいしは私の数歩前を歩く。その足取りは夢遊病患者のようだ。別に何処へ向っているというわけでもなく、紅魔館近くの湖のほとりを散歩していた。
 私は湖といわれたらここにある湖しか知らないが、この湖はかなり大きいものらしいということはパチュリーから聞いたことがある。
 端から端へ行くのに一番幅があるところでは飛行しても2~3時間はかかるらしい。事実昼間に来たら紅魔館までたどり着くのに夕方になってしまう、と白黒の魔女が言っていた。
 言われて見れば確かに広い。これなら陣を取るにはもってこいの場所だと思った。
 こうやって自分の庭の湖すらまともに見たことはないのだな、と思うと今度は是非色々な湖を見て見たいという気持ちが湧いてくる。
 流石に湖の近くだ。朝方は冷え込んでいる。年がら年中霧がでているこのほとりの土は湿気を吸って歩くと泥が綺麗な紅い靴につくのでいつもは歩くことなど無い。
 日はまだ出ていないが、うっすらと遠くの空の闇が青くなっていた。紅い霧と交じって心なしか紫にも見える。1時間かそこらで日が昇り始めるだろう。
 とはいえここはレミリア・スカーレット、お姉さまの敷地内だ。霧によって太陽の光は無理矢理屈折させられてまともには入ってこない。先ほど年がら年中霧がでている、と言ったが正確にはだしているのだ。紅魔館から。
 外から見る者は霧が紅いのだと錯覚しているようだが実はそうではない。中心部に紅魔館があり、その色を霧が反射して全体が紅く見えてしまうだけなのだ。
 だけなのだと言っても通常はそんな現象は起こらないらしい。・・・・・・実は私も詳しくは知らない。さすがお姉さま。
 今も紅い霧が出ていたが今日のはそれほど紅くはなかった。だが、この霧の濃度でも普通の人は迷ってしまうだろう。それは霧に紅魔館が放つ魔力が溶け込んでいるからだ。
 以前に紅白の巫女がお姉さまが放つ紅い霧を止めるためにやってきてお姉さまを倒してそれを止めさせたが、今もこうやって紅魔館に近い場所には紅い霧を放ち続けている。この程度なら自分の敷地内だ。文句は言ってこないだろう。
 人間は迷うがちゃんと紅魔館にはたどり着けないようにしているのだから尚更だ。たまに気に入った人間は館に招待しているようだが、そこは目をつぶって欲しい。
 ともかく紅魔館という建物自体も普通の建物ではない。お姉さまが幻想郷に館ごと引っ越してきたのにもそういう理由があるのだと思う。まぁ本当は私を閉じ込めたまま引っ越すのはそれしかなかったというのが最大の理由なんだろうけど。
 さて、館を出て5分は歩いたがお互いに沈黙したままだった。
 私は先のこいしの不可解な能力について考えていた。確かににああいったスペルはある。私も「そして誰もいなくなるか?」という似たような姿を消して攻撃するスペルを持っている。
 蓬莱人も自ら火の鳥と化し自分の姿を炎と融合させて消えるようなスペルを持っていた。他にも鬼は霧となって姿を隠したり、咲夜みたいに時を止めてその場から離脱するという消え方もある。
 しかし、こいしのあれはどれにも当てはまらない気がした。
 物理的にそこに居るが、消えているとかいう次元ではない。
 ありとあらゆるものからこいしという存在が抜けたように感じた。ありえないが、それが一番しっくり来る回答だった。
 ありえないと今、前置きをしたばかりだが可能とするのならば、世界そのものの認識をずらさなければならない。・・・・・・世界の認識をずらす・・・・・・そんな事ができるレベルのスペル。
 そう考えると見えてくる答えはおのずと1つになってくる。間違いない。
 おそらく・・・・・・おそらくアレがこいしの“ラストスペル”。
 己の能力、こうでありたいと最も思う幻想、自分の根源それら3つが重なり合い最も強大な形で発現するのがラストスペル(他にもラストワードというのも存在するが多分同一視でいいだろう)だ。
 
 「考えているの? フラン」

 ハッと我に返る。

 「心を・・・・・・」
 
 言いかけてこいしがそれを遮る。

 「読んでないよ。なんとなくそう思っただけ。多分考えている通りだと思うけど、さっきのあれが私のラストスペルだよ」
 「・・・・・・!」
 「だってフランのだけ知ってるっていうのもずるいでしょ? あのスペルは『サブタレイニアンローズ』といって私の存在を一時的にこの世に認識させなくするの」

 驚いた。そう簡単に答えを明かしてくれるとは。
 ははは、しかし・・・・・・存在を一時的にこの世に認識させなくするですって・・・・・・?

 「・・・・・・だから避けれたのね。あの瞬間お前はこの世から擬似的に居なくなっていた」
 「そう、きっと潰す瞬間だけフランは何を潰しているのかすら分からなくなっていたと思うわ。認識ができないっていうのは存在しないという事と同じ。『サブタレイニアンローズ』はそれが個人から世界レベルに変わっただけのことよ」
 「そんな簡単なことじゃあないはずよ。認識できないってだけで存在しないという事にはならない」
 「不思議なことにそれがなるんだよねぇ」
 「私のラストスペルとは性質は違うけど、お前の持つそのスペルも性能は狂っている。一体何を犠牲にして個人レベルの無意識操作を世界の認識をずらしてしまうほどのものに昇華させたの?」

 フランドールの歩みが止まる。ここから先は赤い霧の影響を受けていない場所だ。
 つまり、この外に出て日が明けてしまえば太陽の影響を受けフランドールの力は弱まってしまう。フランドール自身は傷も癒え、分裂しかけていた性格も戻し、吸血鬼としてほとんど完全な状態で更に霧によって太陽の光を、館の館内なら雨も防ぐ、加勢するものも沢山居るという絶対的テリトリーの中に居たのだ。もちろんこいしに数での勝負は意味がないと分かっているが。
 ともかく、この外でこいしとやり合うというのは流石になかった。
 ・・・・・・というのが常識的な考えだろうが、何故だかフランドールはこの外にまで着いていってもいいと思っていた。無意識を操られているわけではない。
 おそらく、今回は何か争ったりということは無いと思ったからだ。根拠があるわけではない。吸血鬼、いや妖怪としての本能からだ。
 こいしは足を止めてこちらを振り返った。相変わらずの無表情ぶりだ。
 
 「私の名前ってねこいしっていうでしょ」
 「そういや、石ころみたいな名前ね」
 「そう、その辺に転がっている小石と同じ名前」

 彼女はその場にしゃがむと落ちていた1つの石ころを拾うと悲しそうな顔をした。

 「ちっぽけな存在。誰にも気付かれないようにひっそりと生きてきた。サトリっていう妖怪はそういう風にして生きてきたの。フランには分かるかな? ほら、私達って他人の心が読めるでしょ? それってとても嫌がる人が多いんだ。
  ・・・・・ちょっと寂しいと思わない? 私は思ったよ。だってこんなに大きな広い世界に生まれてくることが出来たのにお互いに心を許せる相手がお姉ちゃんだけだなんて寂しすぎるもんね。フランだってそう思ったでしょ? ずっと地下に閉じ込められて、お話できるのはたまに妹が狂ってないかどうか確かめに来るお姉ちゃんだけだったんだし」

 そうだ。こいしはそういう点まで私と一緒だった。フランドール・スカーレットと古明地こいしはお互いに愛する姉を持ち、世界に嫌われた存在。私は地下という閉じた世界で、こいしは私と違い開放的で外を歩き回ったが、誰にも相手にされないという閉じられた世界で。そうやって生きてきた。
 ああ、だから誰かに相手にしてもらおうとして・・・・・・あんな酷い笑い方を顔に刻んでしまったのか。

 「つい最近、地下に遊び相手の人間が来たときは随分楽しそうだったじゃない?」
 「あの場に居たのね」
 「偶然ゴキブリみたいな人間を見つけて観察していたら辿りついたの。いや、ほんと楽しそうだった。私もわくわくしてまぜてまぜて~って言ったけど2人とも白熱していて全然気付かなかったよね。ま、その後ゴキブリさんとは山の神社でばったりあったときに半殺しにしちゃったけどネ(はぁと」
 「は―――?」
 「いや、フランにも見せてあげたかったよ。ごめんなさいごめんなさいって謝るゴキブリの姿を」

 こいしの口元が歪む。彼女の顔はまた酷い笑い顔になっていた。

 「お前・・・・・・」
 「やだなー、冗談だよ。ちゃんと五体満足で生きて返したから、ね? フランのお気に入りを殺しちゃって恨まれても仕方ないからね。・・・・・・もう、そんな怖い顔しないでよ。私はフランのこと大好きだし。お姉ちゃんの次に好きなんだよ?」
 「そうか、話っていうのはそういうくだらない話だったの」

 拳を握る。否定しよう。私とこいしは一緒ではない。私はこいつと同一視されたくない。これ以上一緒に居たくない。

 「・・・・・・そう、怒っているんだ。フランのそういうとこはかわいいなぁ。だけどごめんね、いまちょっとだけその握った拳を解いてくれるかな? うん、話があるの」

 仕方なく拳を解く。それに怒りではこいつの思う壺だ。こいしは手で遊ばせていた小石をアンダースローで湖に投げた。小石は水面を何度も跳ねて、遠く遠くへと飛んでいった。こいしはさっきよりも小さな石を手に取るともう一度アンダースローで投げた。今度も水面を跳ねて遠くへと飛んでいった。

 「はい」

 こいしは地面からよく飛びそうな形の石を拾うと、私に放り投げた。キャッチするとなるほど、確かに握りやすい石だ。これなら遠くまで飛ぶかもしれない。やったことはないけれどこういうのは得意だ。
 外の世界にはこういう風に弾を投げるやきゅうというすぽーつがパチェが言っていたなぁ。人に当てたらダメという事が弾幕ごっこと違う点らしい。それで一体どうやって勝敗をつけるのかは知らないけれど、それはそれで面白そうだと思った。結局やらなかったけど。
 親指と人差し指と中指で小石を固定するとこいしの真似をしながら湖に投げた。「え゛っ」という声が隣からしたような気がしたが聞こえなかった。石は水面に激突しバシャーンという音と共に湖が空に舞い上がった。
 別に私はコントでやっているわけではない。おっかしいなぁ。
 そうそう、さっきのやきゅうの話だけど私がぴっちゃーをやるっていったらきゃっちゃーが誰も居ないから始められなかったのだ。今考えたらそうだよなぁ、と不本意ながら納得せざるを得なかった。
 舞い上がった水が湖に戻る。水しぶきが凄いので魔力の壁で濡れないようにする。水しぶきとはいえ水はあまり得意でない。

 「フランはね」
 
 何度目の“いつの間にか”だろうか。こいしに肩を触れられていた。私も私でもう驚きはしなかったけど。こいしは私の肩をゆっくりさすった。

 「何に対しても力を込め過ぎだよ」

 なんか触れられているだけで気が抜けていく。この感覚は知っている。美鈴の“ちゅうごくけんぽう”にもあったやつだ。脱力する事で一点に集中させすぎた力を身体中に分散させる。
 脱力は適正な力で技を繰り出すための基礎中の基礎と言われたものだ。「さぁもう一度試してみて」と小石をもう1つ握らされる。

 「・・・・・・ええ」

 まだ波打つ湖に言われたとおりに石を投げる。今度は腕をしならせて横に振りかぶり体全体と手首を使い飛ばした。いい感じじゃん。
 石は水面に激突せず、跳ねていい音を立てながら水面を走った。遠くまでは飛ばなかったがさっきよりはよっぽどましになっていた。

 「練習したらうまくなるよ」
 「何枚のコインが必要かしらね」
 「ふふふ・・・・・・」

 漏れるような笑い。それはどこか他人行儀な笑いで友達と談笑するときにできるような笑いではなかった。こいしという少女は私にはまだまだ理解できなかった。
 さて、私は気が長いほうではない。そろそろ本題に入りたい。
 こいしは横目で私を見、お互いに目と目を合わせた状態で沈黙が続く。こいしは困ったような顔をして、何から話そうか考えているようだった。というのはフリだけでもしかしたら何も考えていないのかもしれない。
 実際の時間にすれば1~2秒で長くは無かっただろう。

 「お前は、一体何がしたい。そろそろ話してくれてもいいんじゃない? 地上に攻撃を仕掛け、私を拉致して・・・・・・友達になりたいといっていたけど、そうじゃないでしょ? 私のこの力を何に使うつもりなの?」
 「いえ、能力云々は置いといて私はフランと友達になりたいと心の底から思ってる。フランに乱暴をして拉致したのも、お姉ちゃん達が逃がしたのも、お空を差し向けたのも、分身をそそのかしたのも全てフランに強くなってもらいたかったからなの。その上で私に協力して欲しかったから」
 「いくらなんでもそれは子供でも嘘だと分かるわ」
 「そうかしら? 本当に・・・・・・? 今回私とフランの出会いが無ければ――――フラン、貴方は死んでたよ」
 
 冗談じゃない。死んでいたですって? こいつは一体何を言い出すんだ。お前のせいで死にかけた、のほうが正しいだろう。
 さっきの小さい和やかな時間は終わり、二人の間には再び剣呑な空気が漂う。

 「出会う形は多少暴力的になったかもしれない。でも私は最初の一撃で確信したのよ。フランドール・スカーレットはもうすぐ死ぬと。じゃないと不意を突かれたとはいえあんな傷、吸血鬼にとって致命傷になるはずが無い。例えそれがお天道様の真下であったとしても」

 最初の一撃。フランドールはそういわれてお腹を触る。
 確かにアレは痛かった。背中から腹まで貫通する貫手による一撃。
 こいしの言う事は信じていないけど・・・・・・そう言われると、そういう風にも思えてくるから不思議だ。
 そう私は今もピンピンと生きている。人間に襲われようと軽く肉塊し、血を啜る。太陽が邪魔をするのであれば目を掴み灰塵と化す。紅い月が出ていれば絶対に死ぬことに無い王としての力も最大限に発揮されるだろう。そんな吸血鬼として今も生きている。
 ―――――――誰のおかげで? 問われると、答えに詰まる。こいつのおかげなのだろうか?
 ふるふるとかぶりを振る。

 「フランは人間になりたかったんでしょ? そして、それが無理だと今回の件でようやくわかった。よかったじゃない。このまま血を吸わない日が続いていたら死んでたし」
 「人間になれないのなら死んでもいいと思ってた。中身の無い500年、1000年を生きるよりも充実した50年、100年を生きるほうがずっといいと憧れたわ。人間って素晴らしいと」
 「いい夢を見たんじゃない? 私も出来ることなら人間として生まれたかった」
 「隣の芝は青いっていう言葉を知っているかしら。吸血鬼には吸血鬼なりの苦悩がある、人間にも人間なりの苦悩がある。・・・・・・吸血鬼をやめる、それは逃避だったのよね」
 「知らなかった。少し会わないうちにずいぶんと大人になったのね」
 「私はお前と・・・・・・随分昔に会ってるのね」
 「思い出した?」
 「ええ、なんとなくそういう事があったという程度には」
 
こいしと何十年か前に地下で会っている。ずっと忘れていた事だった。私もそのことについてはあやまらなくてはならないと思っていた。
 
 「私はずっと憶えていたよ。初めて出来た友達。とても嬉しかった」
 「・・・・・・やっぱりそっか」
 「いいの。私もフランに対して結構ひどいことしたからね」

 再び―――場が剣呑な雰囲気から一転穏やかな空気に包まれる。こいしが作り出すこの空気は正直苦手だ。なんていうか非日常というか、作られた空気のような気がした。
 きっとこれがこいしにとっては普通なんだろう。でもこいしは悪い奴ではないけど、以前の私と同じで悪いことを悪いと思っていない節があった。だからこの空気を一瞬で殺伐とした世界へと塗り替えることにも全く平然と行うだろう。

 「・・・・・・」
 「ね、どうして黙っちゃうの? これで誤解も解けたし、私たちは友達になれたんだよね?」
 「・・・・・こいし。私にはお前が一体何を考えているのか全く分からない。わけのわからない存在と例えてもいいわ。この世に住む人間も妖怪も嬉しければ笑うし悲しければ泣く。恋に落ちれば高揚し、死ぬと分かれば恐怖する。そうだからこそ魅力的だと思うわ。それに溢れた人間は素晴らしいと思ったから私も人間に憧れたのよ。人間って素晴らしい!! ってね。こいし・・・・・・今のお前にはそういったものが欠如しているわ。残念だけど、友達にはなれない。せめて友達になろうとするのなら・・・・・・その閉じた瞳を開けてみなよ」
 
 こいしは無表情で黙って聞いていた。やはりその表情からは何も捉えることができない。やがてこいしの口だけが小さく動き出した。目は確実に焦点が合っていない。壊れた音響機械(スピーカー)みたいにつぶやきはじめた。

 「・・・・・・おっかしいなぁ。私の血を飲ませたはずなのに、何も影響が出ていないなんて。おっかしいなぁ。あ、わかった。あいつだ。あいつが何かしたんだ。あー、あの蜘蛛もっと切り刻んどいたらよかったなぁ。あーあーあー・・・・・・」
 「何を言っているの?」
 「・・・・・・あ、なんでもない」

 なんでもないわけないと思う発言だったけど。

 「そっか。でも私は諦めないよ。約束だからね」
 「だから一体何のた――――――――――――――」

 言葉を最後まで出す前に突然こいしは消えた。破壊の目を掴んだときと同じ消え方だった。今まではこいしを認識できなくなるまでに数秒はかかっていた。カメレオンのようにうっすらと風景に溶け込んで消えていく、そんな消え方だったはずだ。

 「(全く見えないっ!!)」

 2度目で確信した。これまでものもとは性質が違う。似ているようで全く別の能力。
 落ちている小石に躓くことはあるだろうけど、落ちてもいない小石に躓くことが無いようにこいしは此処には完全に存在しなかった。
  
 「何の為? フラン、自分で私に頼んだのに忘れたって言うの?!」 

 近い。声が聞こえるのに、どうして姿は認識できないの?!
 チッ――――――仕方ないか。手品にように何も無い場所から1枚のスペルカードを取り出す。
 ラストスペルだ。レーヴァテイン、恋の迷路、スターボウブレイク、そして誰もいなくなるか? すべての工程を吹き飛ばして発動すべきはこのスペルしかない。それ以外のスペルは発動してもきっと無意味。何故なら相手が発動したスペルもラストスペルだからだ。別に相手がラストスペルを発動したからこちらも発動せねばらなないというルールは無いのだが、それ以外のスペルでは何か不安というか力不足のような気がした。
 圧倒的な火力を以ってして一瞬で鎮圧する。
 その為の――――最凶スペル『495年の波紋』を発動させるために魔力を注入する。
 体中の血液が沸騰し、魔力がスペルカードに吸い取られる。七色の翼が輝く。今度は羽を地面に突き立てるなどということはしなかった。2本の足はしっかりと地面を踏みしめていた。黒髪を束ねたような黒い渦が周囲に解き放たれる。

 「(そんな簡単に使っていいスペルじゃないっていうのに――!)」

 Last Spell!!! QED「495年の波紋」

 「けど、出し惜しみはしないわよ! ラストスペル!! 495年の波紋!!!」

 スペルカードは弾けて私の半径10メートルに泡の弾幕を展開させる。1000を超える泡の弾が浮遊し空間という空間を埋め尽くす。特に外側の方は蝿も蚊も一匹たりとも逃さないほどの密度が高く光があらぬ方向へ屈折していた。1つでも触れれば最後、分子単位まで破壊しつくされ触れた物本来の意味すら壊しつくす。

 「それが495年の波紋。でも無駄ね、無駄。私のこの攻撃の前では完全に意味を為さない」
 「無駄か無駄じゃないかは・・・・・・」
 「私が決める」
 「!!」

 ふぅ、と吐息が私の耳に吹きかけられる。こいしは私のすぐ隣にいるのだ。この沢山の泡の1つにも接触することなく私の隣に居ることは不可能なはずなのに、可能としていた。

 「ほら、また肩に力が入ってるよ」

 肩に重みを感じる。今だ! 周囲に展開してた泡の弾を全て自分の方向へ引き寄せた。弾幕ごっこなら避けられない弾幕を作れば怒られるだろう。だが、この技に安置はない。逃げ場は無い。だってこれはごっこではないのだから。これは―――殺し合い。殺し合いなんだ。

 「――――――わかってないなぁ」

 何度教えても分からない馬鹿な生徒に溜め息を付くようにこいしは言った。私だって分かっている。なんとなく当たらないことは。だからこそのとっておきだ。だからこその波紋だ。
 全方位から寄せた泡は未だそのままだ。つまり私は泡の中に体を埋めている状態でもし普通の敵が近づくと消し飛ぶ。
 
 「うっ」
 
 背中に痛みが走る。
 その状態でこいしが私の背中を撫でるようにして鋭い爪で浅く斬る。思わぬ痛みに声がでる。
 居るのだ。触れたのだ。斬ったのだ。でも、私の攻撃はクロスカウンターでも当たらない。振り向きざまに放った拳は空を虚しく切るのみだった。風を動かしたのは私一人だ。こいしが動いたという流れもまったく掴めない。そこに居るのか、居ないのか・・・・・・分らない。
 それだけではない。これは原理がわからないので自分の頭の中でも混乱していたが、どういうわけかこいしは存在していない状態で存在している私に触れることが出来るようだった。
 一方的な攻撃――――相手が自分を斬ったということはその部分は接触しているはずなのだ。以前咲夜がゴキブリ退治、ああ、白黒ではなく本物のゴキブリ退治に接着剤がはいった紙筒を使っていたことがあった。強力な接着剤だったからゴキブリが何匹も捕まっていた。美鈴もくっいていたから咲夜は超ぶち切れていたことも付け加えておこう。
 ―――で、だ。仮にこいしが接着剤に触れればどうなるのか?
 おそらく答えは「ひっつかない」だ。私もスペル発動中はわずかながらだが波紋で全身を防御している。その私に触れたのにまったくの無反応からしておそらくそれが正解だった。
 吐息を感じても重みを感じても痛みを感じてもそれらは全てあちら側からの一方通行。あちらからは触れるがこちら側からは触れることが出来ない。
 くそ、これはさすがに反則だろう――――――――自分の顔が不愉快で歪むのを感じた。

 「痛いでしょ、フラン。私は全く痛くない」
 「だんだん苛々してきたわ」
 「くくく、クヒヒヒヒヒ・・・・・・フランは必ず私の友達になってくれるよ」

 どうやら会話も一方通行。しかし言い返えさざるを得ない。

 「友達ですって? 嘘を吐くな! お前が私を見る目はその辺りに居る動物を見る目のそれと同じじゃない!!」
 「ヒヒヒ」

 笑い声が聞こえる。肩の重みが消え、こいしが手を離したことが伺えた。こいしの言う通り495年の波紋が本当に効かないのであればはやく解除しなければならない。ラストスペルだけに後の事を考えないほどの魔力消費が激しかった。肩の傷の治りが遅いのもそのせいだ。
 1秒あれば再生できる傷が10秒かかる。それくらいその他の事に割く魔力を攻撃にまわしている。

 「私の見立てだと、495年の波紋のスペル発動限界は約2分30秒。・・・・・・違う?」
 「・・・・・・!!」

 空との戦いでそこまで見抜かれていたとは。
 
 「残り2分ほどあるようだけどまだ遊ぶの? この『サブタレイニアンローズ』と」

 『サブタレイニアンローズ』、それがこのスペルの名前らしい。だが、それにしてもこれは―――――これは強力すぎる。一個人、しかも妖怪としては戦闘能力が低い種族のはずのサトリが、いやサトリであったものが得られるレベルのものではない。
 本当に一体どうやってこれだけ大きな力を手に入れたというのか。
 実のところ、心当たりはあった。と、いうよりそれ以外こいしがパワーアップする方法は無い。

 「(人間にしか効かないと思ってた・・・・・・)」

 吸血鬼のあまりに有名すぎる伝承。
 吸血鬼に血を吸われたものは、吸血鬼となる。
 こいしの部屋に監禁されたとき、私はこいしの首筋に噛み付いたのだろう。―――――愚かにも渇ききった喉をほんの少し潤すために。ほとんど無意識下の中での事とはいえ、私はこいしを吸血鬼にしてしまった。

 「(人間ならまだしも、妖怪が血を吸われて吸血鬼になるなんて聞いたことが無いわ。それとも私の勉強不足かしら)」

 フランドールはおそらくこいしは吸血鬼になったのではないと直感で分かっていた。妖怪は吸血鬼にならない。勉強不足でもなんでもない。ルールだ、それは。
 妖怪は存在自体が幻想。幻想はもっと大きな幻想(例えば吸血鬼とか)に侵されたら消滅するのみだ。
 なら、こいしは一体何に変異したのだろうか?
 中身を確かめたい―――フランドールはそう思った。あるいはその中身が私を救う手段になるかもしれなかったから。

 「・・・・・・面白い」

 このとき、不意に言葉と笑みがこぼれたことをフランドール自身は知らなかった。


続く

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